バフェット指標は神の声か? 見え難い実体を客観的に探る著名投資家の知恵とは 2014/06/02



 ある国の株式相場に急落の可能性は高まっていないか、あるいは逆に売り込まれすぎていないかを見る指標に「バフェット指標」と言われるものがあります。米国市場だけでなく、日本市場にも有効とも言われるその指標で現状をみると…

■バフェット指標は米国のバブルを的確に予測していた!

 バフェット指標とは、投資の神様とも言われることがあるウォーレン・バフェット氏が愛用しているとされる指標、で、「その国のGDPと上場株式の時価総額の総和を比べるもの」です。論より証拠、まず米国のバフェット指標をみてみましょう。図1は米国の名目GDPと時価総額の推移をみたものです。時価総額には時価総額の推移を表すWilshire 5000を用いています。

図1 米国のバフェット指標(GDPと時価総額総和の推移)
米国のバフェット指標
(出所:米国商務省、ロイター、eワラント証券)

 過去の動きを見ると、2000年前後のITバブルの時期の米国株は明らかに過熱気味で、暴落シグナルになっていました。また、サブプライムバブルの2006年、2007年にも株式時価総額がGDPを超えていました。その見方では、「現在の米国株は1998年から2000年のITバブルぐらいに過熱気味」と言えそうです。なお、この指標の使い方で難しいところは、割高とは言えてもいつ暴落するとは分らないことで、数年以上も割高であり続けることもしばしばある点です。

■日本株をバフェット指標でみると…

 もとは米国市場の動向を見るためのバフェット指標ですが、証券市場が発達し外国為替取引の規制がない他の先進国でも有効と推測されます。そこで、日本株に当てはめてみたのが図2で、日本の場合もバフェット指標が見事に当てはまっているようです。1988年から1989年の「日本の株・不動産バブル」には24-48%もGDPを上回り、またサブプライムバブル末期の2005年から2006年にも4%から6%程度GDPを上回っています。

図2 日本のバフェット指標(GDPと時価総額総和の推移)
日本のバフェット指標
(出所:内閣府、ロイター、eワラント証券)

 ただし、これを見て、「2013年末の日経平均16,291円、TOPIXで1302.29ポイントでも日本株はまだ安心かぁ~」などと安心はできません。日本株市場では外国人投資家の影響が大きいことと、近年世界各国の株式市場の相関が高まっていること、暴落時にはさらに相関が高まることを考えれば、仮に米国株暴落が始まれば日本株も大きく下げることになります。実際に2000年前後のITバブル期には日本株は割高とは言えなかったのに、米国株安につられて大きく調整しています。

 さらに図2をよく見ると、「あれ~。いつの間に日本株はそんなに上がっているの?2000年のITバブルの頃は日経平均は2万円台後半だったよね」という疑問が沸いてくる方も多いでしょう。


■日本株が大きく戻しているのに実感できない…こんな理由があったのか

 実際のところ、東証一部の時価総額でみると、日本株は1989年ほどではないものの、2000年前後のITバブル当時程度には戻しています。(図3の東証一部時価総額の黄色い2点に注目!)
 一方、日経平均とTOPIXは2013年末でも1999年末に比べると、それぞれ14%、24%下回っていますし、5月28日時点だとそれぞれ22%、30%も下にあります。図3の棒グラフにあるように、東証一部の時価総額の増加率はほぼ毎年例外なく着実にTOPIXの増加率を上回り、1984年から2013年まで平均で2.7%、多いときには7%近くも増えています。
 この理由は、(浮動株を考慮しない)時価総額がすべての株式の価格に上場普通株式数を掛け合わせた数値の合計であるのに対し、日経平均やTOPIXという株価指数がそれを反映しない仕組みになっているからです。
 まず、日経平均は基本的に225銘柄の株価の値動きしか見ないので、時価総額は無関係です。また、時価総額を基準にした指数のTOPIXも、新規上場や増資、実際に市場に出てくる株(浮動株)を考慮してそれらの影響が無い様に調整されます。この結果、新規公開や公募増資、指定換えで東証一部の時価総額が増えても、TOPIXの計算に入れられた直後には影響はでません(もちろん、その株がその後大きく上昇すればプラスになります)。

図3 時価総額と日経平均・TOPIXの乖離
時価総額と日経平均・TOPIXの乖離
(出所:ロイター、eワラント証券)

 特に影響が分りにくいのは、2003年頃の“りそなショック”前後や2008年の“リーマンショック”前後に数多くの銀行が行った普通株への転換条項付き優先株の大量発行です。簡単な例を考えるなら、例えば100円の企業の発行済み株式が100株だったとします。時価総額は100×100株=10,000円です。この企業が優先株を発行してそれが転換されて100株増えたとします。通常株価が下がるので、半分の50円になってしまっても時価総額は50円×200株=1万円で同じです(TOPIXのような時価総額ベースの株価指数は、普通株公募では直後に、優先株や転換社債からの普通株転換では時差がありますが後で影響が無い様に調整します)。その後、株価が10%上がって55円になっても、以前の100円からは45%も下がったままなのに、時価総額で見ると55円×200=11,000円となり、10%も上がっていることになります。こういった仕組みで、公募や転換条項付き優先株の発行が多かった企業の株式は時価総額が増えても株価は戻らないのです。


■みずほFGで実際に調べてみた

 現実には、各企業が存続・発展するために合理的な判断を行った上で様々な株式がらみのファイナンスが行われているはずです。また各種規制や金利見通しなどの経営判断も様々なので、個別企業の過去の事例を一概に批判することはできません。その前提の下で、あくまで一例として3大メガバンクの一つのみずほフィナンシャルグループの株価と時価総額を調べてみたのが図4です。

図4 みずほFGの時価総額と株価の推移
みずほFGの時価総額と株価の推移
(出所:ロイター、eワラント証券)

 みずほFGの株式時価総額は2003年3月に1兆円にまで落ち込みました。その後、2006年3月には株価は10倍、時価総額も11.6兆円にまで増えました。しかし、リーマンショックの後からは動きが怪しくなります。2008年9月から2014年3月までに、優先株の普通株転換などで発行済み株式数は約2.1倍にもなっています。このため、2014年3月の株式時価総額は2008年9月とほぼ同じ4.9兆円に戻っていますが、株価は当時の442円には遠く及ばず2014年3月では半分以下の204円でした。喩えて言うなら、「2008年9月以降は背負う荷物が倍以上になったので株価の値動きが重たくなった」ようなものです。


■投資に活かすには

 投資を考える際には、まずバフェット指標で米国や日本の株式相場全体の過熱感を見て、危ないと思ったら投資ポジションを減らしたり、日経平均やTOPIX、NYダウのプットを買うことに使えそうです。逆に暴落した時に買いに動く「心の支え」にもなるでしょう。
 また、個別株への投資でも時価総額の推移を見た方がよいでしょう。また、一般論で言えば、「過大な増資で値動きが重くなった銘柄はコール買いや信用取引などでの短期投資が難しい」、「大規模な公募増資などで株価が下がった時に塩漬けにしていても株価は戻り難い」ということは知っておく必要がありそうです。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)