米株高はインフレ加速が要因?FRBはどう動く? 2016/12/26



 2016年12月14日のFOMCで米国のFF金利の誘導目標が0.25%-0.50%から0.50%-0.75%に引き上げることが発表されました。また、2017年の利上げ見通しが従来予想の2回から3回に引き上げられました。米国株式市場は下落で反応した一方、為替市場では米ドル対円相場が115円台から117円台に上昇する動きを見せました。

 トランプラリーとも呼ばれる最近の株価の急激な上昇はインフレーション(以下、インフレ)の加速が意識されていることが背景にあるのかもしれません。そこで米国でインフレが加速した時期の金融政策を振り返り、今後の米国の利上げが米国の株式市場にどのような影響を及ぼすのか考えてみたいと思います。

■1970年代の米国のインフレ対策

 図1は、米国の代表的な株価指数であるS&P500指数と、米国の政策金利としてFF(フェデラル・ファンド)金利誘導目標の1971年からのチャートです(左軸は対数目盛りになっています)。チャート中の背景の色は政策金利の局面を表しています。利上げ局面を薄い赤、利下げ局面を薄い青、変更がない時期を薄い緑で示しています。物価調整後のS&P500指数とは消費者物価指数(季節調整済)の変動分を差し引いたS&P500指数です。なお、以下の図表の全てにおいて2016年12月については日本時間で2016年12月22日午前時点のデータを用いています。

図1:米国の株価指数と政策金利

 1970年代から1980年代にかけて、米国では強烈なインフレが発生しました。例えば1971年から1979年までの物価を消費者物価指数(季節調整済)で試算すると2倍ほどになっています。同期間のS&P500指数の騰落率は約+13%でしたが、物価調整後のS&P500指数は約-42%となっており、株価の上昇はほぼインフレによるものと言えそうです。1979年、FRB議長に就任したポール・ボルカー氏は政策金利の引き上げを積極的に行い、インフレ退治に注力しました。1981年6月のFF金利誘導目標は19.00%まで引き上げられ、直後に株価は大きく下落しましたが、深刻なインフレは解消されました。

 経済の教科書などには利上げは経済にマイナスというのが定石のように書かれていますが、これはボルカー氏がFRB議長だったころのインパクトが大きかったためかもしれません。図1で1990年代以降を見ると、利上げ局面では株価の上昇を伴っていることが分かります。これは金融政策の運営によるものと言えるでしょう。

■利上げは株安という定石は過去の話?

 金融政策の変化はFRB議長の政策スタンスによるところが大きいと考えられます。ボルカー氏が議長だった時期の最優先課題はインフレ退治でしたが、ボルカー氏の後任のアラン・グリーンスパン氏が1987年8月にFRB議長になってからは景気動向を見ながら政策金利を決めているとみられ、好景気のうちに利上げし、景気が悪化してきたら利下げをして景気浮揚を図る、ということを実施してきたと考えられます。

 そこで表1はグリーンスパン氏がFRB議長に就任する前後で図1の物価調整後のS&P500指数の年率平均騰落率を比較したものです。FF金利誘導目標の切り上げ局面(利上げ局面)とFF金利誘導目標の切り下げ局面(利下げ局面)でも比較しました。

表1:1971年から2016年の局面別平均騰落率

 表1から分かるように、グリーンスパン氏がFRB議長に就任して以降は、利上げ局面でも株価は上昇傾向にある一方で、利下げ局面では株価が下落している傾向があり、経済の教科書に書いてある定石とは異なっていることが分かりました。

 しかし図1を見直すと、グリーンスパン氏以降、利上げ局面が終わってから株価の下落が発生しており、株価の下落時に利下げを行ってきた傾向があります。つまり、利上げ後に遅れて株価が下がる可能性は高いと言えそうです。ボルカー氏の利上げは急ピッチであったために株価への影響が早かったのかもしれません。

■1970年代のインフレが蘇ると?

 2008年にリーマンショックが発生し、当時FRB議長であったバーナンキ氏はマネタリーベースを拡大させる、いわゆる量的緩和政策に踏み切りました。その後株価は上昇に転じ、最近のいわゆるトランプラリーで勢いを増したダウ平均株価やS&P500指数は史上最高値を付けるまでになっています。しかし、図1をよく見ると物価調整後のS&P500はようやく過去のピークに並んだくらいの水準にあることが分かります。つまり、最近の急激な株価上昇はインフレの加速によるもの、またはインフレの加速に先行した動きである可能性が高いと考えられます。

 金融政策は即効性のあるものではなく、効果が現れるまでに時間がかかる政策であると考えられます。米国がリーマンショック以降続けてきた低金利政策に加えて、バーナンキ氏が導入した量的緩和策の効果が、トランプ氏の大統領選挙当選というイベントを着火点として、インフレの加速として火が付いたかもしれません。

図2:米国のマネタリーベースと政策金利

 図2にあるようにFRBはすでに量的緩和政策を縮小し、マネタリーベースは減少傾向にあります。そして2016年12月のFOMCで政策金利の引き上げを行いました。景気動向に注意しながら慎重にインフレを抑制しようというスタンスが見られます。しかしながら、2017年のトランプ新政権の発足をきっかけにインフレの加速が明らかとなった場合には、FRBは1980年代にボルカー氏が実行したように景気を犠牲にしてインフレ退治を優先する政策を採るかもしれません。

 このシナリオを前提とする場合、米国発の世界的な株安に注意が必要です。ボルカー氏がFRB議長に就任してからの月次のS&P500指数の高値(1980年11月末)と安値(1982年7月末)を比較すると約24%の下落となっていました。今後のFRBの政策金利の動向とマネタリーベースの縮小のペースには要注意です。この場合はNYダウのプットのうち、権利行使価格がNYダウの水準よりも高い銘柄を数カ月保有するという戦略が考えられます。NYダウの下落だけでなく、ボラティリティが上昇したり米ドル対円相場が円安となればそれらも価格上昇要因として期待できるためです。

 しかし一方で、政策金利の引き上げとマネタリーベースの縮小という金融引き締め策は米ドル高をもたらすため、米ドル高を容認しないトランプ新政権との確執が発生するかもしれません。もし、FRBがホワイトハウスの意向に沿った政策しか採れないという事態となった場合、インフレへの対応が遅れるというシナリオもありそうです。

 このシナリオを前提とする場合、インフレ加速による米国株の上昇はあるかもしれませんので、米国株やNYダウのコールでインフレ加速に乗るという戦略も考えられます。この場合は、FOMCの前には一旦ポジションを手仕舞い、FRBのインフレに対するスタンスを確認したほうがよいでしょう。また、ホワイトハウスとFRBの関係性にも注目しておく必要があり、FRBがインフレ抑制へと舵を大きく切った場合にはポジションを手仕舞うことを検討しましょう。また、FRBが金融引き締め策に踏み切らず米国でインフレが加速する場合は円高米ドル安となる可能性があるので、日本株には大きな上昇を期待するのは難しいかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。