米国のイールドカーブから米国景気の先行きを探る 2017/01/30



 米国で長期金利の上昇が目立っていますが、これは米国景気の先行きに対する期待から米国債を売って株式を買うという動きが強まったためと考えられます。一方でFRBによる追加利上げが意識され短期金利も上昇しています。長期金利は短期金利を上回るのが一般的ですが、短期金利が長期金利を上回る、いわゆる「逆イールド」の状況になると注意が必要です。現状では長期金利と短期金利の差(以下「長短スプレッド」といいます)は依然としてプラスですが、米国では過去に「逆イールド」の状況が発生し、その後に株価がピークをつけるということが発生していました。

■米国のイールドカーブは大統領選挙後にスティープ化

 図1は日米のイールドカーブ(年限の異なる国債の利回りを線で結んだもの)の変化を、米国大統領選挙前の2016年10月末時点、米国大統領選挙後の2016年11月末時点、直近時点で比較したものです。通常、イールドカーブは債券の残存期間が長くなるほど利回りは上昇するので右肩上がりの形状をしています。また、イールドカーブの形状は経済動向に応じて変化します。長期金利が短期金利に比べて大幅に高い状況では、イールドカーブの傾きが急となり(スティープ化)、逆に長短スプレッドが縮小する状況ではイールドカーブの傾きは緩やかになります(フラット化)。また、ごく稀に短期金利が長期金利を上回り、右肩下がりのイールドカーブとなることもあります。いわゆる「逆イールド」と呼ばれる現象です。

 米国のイールドカーブの形状は米国大統領選挙前後で大きく変化しています。トランプ氏が勝利したことによる景気拡大期待から米国債から株式への資金移動があったとみられ、長期ゾーンを中心に上昇し「スティープ化」しました。短期ゾーンでも上昇していますが、この背景としてはFRBによる政策金利の引き上げと、今後の追加利上げが意識されているためと考えられます。

図1:米国債のイールドカーブ

 仮に今後イールドカーブの形状が変化し、長期ゾーンよりも短期ゾーンのほうが大きく上昇し、さらに長短スプレッドが縮小する場合には「ベア・フラットニング」と言うこともあります。

 一般にイールドカーブが右肩上がりになっているということは、投資家が将来の金利上昇を予想しているためで、それは将来の景気拡大などを期待しているからと考えられます。一方で、長期金利が短期金利ほど上昇しない状況は、中央銀行による金融引き締めと将来の景気拡大期待の縮小を示唆しているものと考えられます。現状は「ベア・フラットニング」の状況ではありませんが、今後FRBによる利上げのペースは加速すると考えられ、トランプ政権が景気拡大期待を維持し、「ベア・フラットニング」になることを回避できるかには注意したいところです。

■長短スプレッドは株価の先行指標?

 「ベア・フラットニング」と株価の関係を調べるため、まず、図2では米国の長短スプレッドを見ています(月次、2017年1月は24日時点)。長期金利として米国10年国債利回り、短期金利として米国2年国債利回りを用いており、利回りの差を長短スプレッドとして表示しています。図2中の赤い矢印は「ベア・フラットニング」が進んだと考えられる時期です。利回りの水準は趨勢的に低下傾向を示していますが、長短スプレッドはおよそ0%から3%の範囲に収まっています。ところで、「ベア・フラットニング」が進んだのち、長短スプレッドがマイナスとなっている時期もあることが分かります。いわゆる「逆イールド」が発生していた時期です。

図2:米国の長短金利

 図3は長短スプレッドとS&P500指数の関係を見たものです。図2と同じ長短スプレッドですが左軸のメモリを変えて拡大表示しています。興味深いことに、「逆イールド」が発生して数カ月後には株価のピークを迎えていることが分かります。金融引き締めにより短期金利が上昇した一方で、景気の拡大期待に冷や水をかける金融引き締めは長期金利の低下をもたらし、長短スプレッドがマイナスとなったわけです。どうやら長短スプレッドは株式相場のピークを見るための先行指標として利用できるかもしれません。

図3:米国の長短スプレッドと株価

■長短スプレッドを踏まえた今後のシナリオと投資戦略

 今後を考える上で、FRBに関してはペースについて議論があるものの、追加利上げをすることが予想されており、短期金利は上昇するという前提で差し支えないかと思います。次に長期金利ですが、トランプ政権が積極的な財政出動をコミットするなどして景気回復に期待が持てれば、米国債を売って株式を買う流れが継続し、長期金利は上昇するでしょう。この景気拡大シナリオであれば長短スプレッドがマイナスになることは当分先になり、それまでは株価は上昇基調をたどるかもしれません。このシナリオを前提とする場合、NYダウコールや日経平均コールのうち、満期までの期間が長く、権利行使価格が低い銘柄を選択します。このような銘柄は時間的価値の減少の影響が比較的小さく、株式の代替として活用できるでしょう。

 一方で、トランプ政権の財政出動が期待外れとなり、景気の先行きに対する不安が支配的となると、株式を売って米国債を買う流れが発生し、長期金利は低下します。短期金利が上昇して長期金利が低下すれば「ベア・フラットニング」が発生するでしょう。特に長短スプレッドがマイナスとなった場合は株式を売却する、あるいはNYダウプットや日経平均プットのうち、満期までの期間が長く権利行使価格が高い銘柄を選択して長期的な株価の下落トレンドに備えます。プット型eワラントの場合は権利行使価格が高い銘柄ほど時間的価値の減少の影響が比較的小さくなります。長短スプレッドがマイナスになってもすぐ暴落があるとは限りませんので、時間的価値の減少の影響が小さいプット型または時間的価値の減少のないマイナス3倍トラッカーeワラントがこのシナリオには向いていると考えられます。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。