不確実性によるVIXの上昇はまだ市場に織り込まれていないのか 2016/12/19



 トランプ氏の経済政策には不確定要素が多いにも関わらず上昇相場が続いていることから、市場関係者の間では経済政策の不確実性を示すEconomic Policy Uncertainty Indexと言う指数の上昇が注目されています。過去の分析ではこの指数の上昇と恐怖指数とも呼ばれるVIXの上昇が同時期に起きていたことから、VIXには経済政策の不確実性がまだ織り込まれておらず、市場の急変を警戒する声もあるようです。

■経済政策不確実性指数とは

 経済政策不確実性指数(Economic Policy Uncertainty Index)はスコット・R・ベーカー(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院准教授)、ニック・ブルーム(スタンフォード大学教授)、スティーブン・J・デイヴィス(シカゴ大学ブース経営大学院教授)が開発した指数で、主要な新聞から経済政策の不確実性に関する記事の数などから経済政策の不確実性を測定しています。一方で、VIX(ヴィックス)とは、S&P500指数を対象とするオプションの取引価格から推計される予想変動率(ボラティリティ)をもとにした指数であり、株式市場の下落時に上昇する傾向があることから日本では恐怖指数と呼ばれることもあります。

■経済政策不確実性指数とVIXの関係

 図1は経済政策不確実性指数とVIXの推移を比較したものです。過去の研究論文ではVIXは経済政策不確実性指数が高まると上昇する傾向があると報告されており、図1においてもその関係性を見ることができます。しかしながら図2にありますように、2016年に入ってからは経済政策不確実性指数が上昇しているにも関わらず、VIXはさほど上昇せず、年末にかけて乖離しているように見えます。特にトランプ氏が米国大統領選挙で勝利したことを受けて、11月末時点の経済政策の不確実性は1997年以来最も高い水準となっていますが、VIXは低下傾向を示しています。経済政策不確実性指数は月次での公表となるのに対して、VIXは日々上下に変動しますので、月末だけを見ると月中のVIXの動きを捉えることはできません。しかしながら、長期的な関係性から市場関係者が指摘するようにVIXは経済政策の不確実性を織り込んでいないのでは、という指摘ももっともらしいと言えそうです。

図1:経済政策不確実性指数とVIXの推移

図2:経済政策不確実性指数とVIXの推移

■どの程度織り込まれていないのか?

 VIXと経済政策不確実性指数が連動していたと考えられる2015年までのデータでこの2指数の関係を表したのが図3です。経済政策不確実性指数が高いときはVIXも高く、経済政策不確実性指数が低いときはVIXも低いという図3の左上の式の関係がありそうです。この式がどれほど信頼できるものなのかを分析するために、回帰分析という統計手法によって分析したところ表1の結果が得られました。

図3:経済政策不確実性指数とvixの関係

表1: 回帰分析結果(1997年から2015年)
変数 回帰係数の推定値 標準誤差 P値 95%信頼区間
切片 11.4455 1.4370 0.00% 8.6139 14.2771
傾き 0.0978 0.0134 0.00% 0.0714 0.1242

 P値というのは何の関連性もないのに誤差や偶然によって上記回帰係数が推定されてしまう確率のことです。この分析結果では0に近い数値となったので、分析対象となった2指数に関係性があり、偶然ではない、と考えても良さそうです。ではどのような関係性になっているかというと、上記式の切片は8.6139から14.2271の範囲にあることと、傾きは0.0714から0.1242の範囲にあることの信頼性が約95%である、ということです。この式に当てはめると2016年11月末の経済政策不確実性指数は283.68でしたので、VIXは28.87(≒283.68×0.0714+8.6139)から49.51(≒283.68×0.1242+14.2771)の範囲に収まりますが、2016年11月末の値は13.33でした。前述のとおりVIXは月中に上下に変動しますので月末値で乖離するのはやむを得ないですが、それを考慮しても経済政策の不確実性が高い状況にある割にはVIXはずいぶん低いなぁ、という印象はぬぐえません。

■VIXが高まると日本株は下げるのか?

 仮にVIXが異常な状態にあり、今後上昇する可能性があるとすると、日本株にも影響がありそうです。図4はVIXと日経平均株価の推移を1997年から2016年12月まで比較したものです。なお、2016年12月は13日までのデータを用いています。図4を見るとVIXが高まっている時期には日経平均株価が下落しているように見えます。そこでVIXの高い時期に日経平均株価は弱含むのか、という仮設を検証してみます。この期間においてVIXの平均値は20.95でしたので、区切りのよい20を境に日経平均の変動率の平均値を比較したのが表2です。

図4:vixと

表2: VIXと日経平均株価の関係
  営業日数 平均変動率
VIXが20未満のとき 2725 0.13%
VIXが20以上のとき 2461 -0.12%

 表2からVIXが20以上となっている時期の日経平均株価の変動率の平均はマイナスとなっていました。この平均変動率の違いは偶然発生したものかもしれないので、今度はt検定という統計手法によって平均値の偶然性について検証したころP値は0に近い値となりました(分析結果は省略させていただきます)。この違いは偶然発生したものではなさそうと解釈できます。

■投資に活かすなら

 以上の分析結果をまとめますと、次のことが言えそうです。

  • 11月末現在において、経済政策の不確実性は極めて高い状況にある。
  • 経済政策の不確実性が高いとVIXも高くなる傾向にあるが、現状のVIXは想定水準よりも低い。
  • VIXが20以上となると、日経平均株価は弱含む傾向がある。

 投資に活かすのであればVIXの水準に注目し、VIXが20未満で推移しているうちは現物株や日経平均株価を対象原資産とするコール型eワラントの買い持ちを継続する、もしくはVIXの上昇を期待して満期までの期間がなるべく長い日経平均株価を対象原資産とするプット型eワラントのうち権利行使価格がなるべく高い銘柄を保有する、という投資戦略が考えられます。後者のプット型eワラントは日経平均株価の下落に備えるほかに、VIXの上昇に連動して日経平均株価のボラティリティが上昇すればeワラント価格の上昇にプラスに寄与するかもしれない、というアイディアです。後者の場合、時間的価値の減少の影響が小さいイン・ザ・マネーの銘柄(権利行使価格が高い、満期までの期間が長い)を選択します。

 また、VIXが上昇して20以上となった場合には買い持ちしている現物株やコール型eワラントは売却すると同時に、満期日までの期間が短く、権利行使価格が日経平均株価に近い日経平均を対象原資産とするプット型eワラントで相場の下落に順張りで下落相場に乗っていく戦略が考えられます。この場合、VIXが20未満に戻ればプット型eワラントを売却することを検討しましょう。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。